(Vol.359)
「すみません。その絵、撮らせてもらっていいですか?」
「ダメですね。」とキッパリ断られてしまった。
その場所に着いた時、画家とおぼしきその人は
折り畳みイスに腰掛けて、鉛筆デッサンの前に座っていた。
尋ねる以上、断られることも覚悟の上だが気分は悪かった。
四月いっぱいで取り壊される歌舞伎座の
車も人もいない最後の勇姿がそこに描かれているのである。
見渡すと、カメラを持った外人や記念に残そうとする
にわかカメラマンなどが数多く道を挟んで撮影している。
こうしてまた一つ、歴史・文化と称されるものが
過去へと消えて行くのである。